はじめに
「GA4の画面を開いても、どこを見ればいいのか分からない」「BigQueryにデータは入れたが、結局SQLが書けなくて止まっている」。中小ECの現場で、本当によく聞く悩みです。
そんな中で、ターミナルから自然言語で指示するとデータを調べてくれる「Gemini CLI」を、社内のデータアナリスト役として使えないかと試してきました。結論から言うと、月次の集計やちょっとした深掘りであれば、想像以上に任せられます。ただし、出てきた数字をそのまま信じるのは危険で、最後の検算だけは人の仕事として残ります。
専任のアナリストを置けない規模の事業ほど、こうしたツールの「人手の代わり」としての価値は大きくなります。完璧を目指すのではなく、まず自分の手元で動かしてみることが出発点です。
この記事では、Gemini CLIをGA4分析に使うための設定の流れと、実際に使える依頼プロンプトの例を紹介します。CLIツールやBigQuery連携まわりは更新が早い領域なので、コマンドやオプションの細部は必ず最新の公式ドキュメントを確認してください。ここでは「どういう発想で使うか」という骨格をお伝えします。
Gemini CLIとは
Gemini CLIは、ターミナル(コマンドライン)からGoogleのAIモデルに話しかけて、調べものやファイル操作、コマンドの実行などを手伝ってもらうためのツールです。ブラウザのチャット画面ではなく、手元の環境で動くのが特徴です。
データ分析という文脈では、次のような使い方が考えられます。
- 自然言語で「先月の売上を集計して」と頼むと、必要な処理を考えて実行してくれる
- ローカルにあるCSVやエクスポート済みのファイルを読み込んで集計する
- BigQueryなどの外部ツールと連携し、実データに対して問い合わせる
逆に、苦手なこともあります。社内の事情を知らないので、テーブルの意味や事業上の前提は人が教える必要があります。また、出力はあくまで「それらしい答え」であって、正しさが保証されているわけではありません。この前提を忘れないことが、安全に使う第一歩です。
もうひとつ意識しておきたいのは、ブラウザのチャットと違って、CLIは手元の環境でコマンドやクエリを実際に動かせる点です。便利な反面、誤った操作も実行できてしまいます。最初のうちは、いきなりデータを書き換えるような操作は避け、読み取り中心の使い方から慣れていくのが安全です。
なぜGA4分析でCLIなのか
GA4の標準レポートは便利ですが、「自社の事情に合わせた切り口」を作ろうとすると途端に難しくなります。一方、GA4のデータをBigQueryにエクスポートしておけば、SQLでどんな角度からでも集計できます。問題は、そのSQLを誰が書くのかという点でした。
Gemini CLIは、この「SQLを書く」部分を肩代わりしてくれる存在です。担当者は日本語で知りたいことを伝え、CLIがSQLを組み立てて実行する。ターミナル上でやり取りが完結するので、依頼内容も結果も履歴として残りやすい、というのも地味な利点です。
加えて、CLIならではの利点として「同じ依頼を繰り返しやすい」点があります。一度うまくいった依頼文を手元にメモしておけば、来月も同じ言葉を投げるだけで同じ集計が走ります。月次の定例作業ほど、この再現性がありがたく効いてきます。GA4の画面で毎回同じ操作を手でなぞる手間と比べると、差は小さくありません。
BigQuery(GA4データ)へ繋ぐ設定の流れ
具体的な手順は環境やバージョンによって変わるため、ここでは流れだけを整理します。実際のコマンド名やフラグは公式ドキュメントで確認してください。
大きく分けると、準備は次の4ステップです。
- GA4のデータをBigQueryへエクスポートしておく:GA4管理画面のBigQueryリンク設定から、対象プロパティのデータをBigQueryに送る設定を行います。これは既存の連携があればそのまま使えます。
- Google Cloudの認証を通す:手元の環境からBigQueryにアクセスできるよう、Google Cloud側の認証を済ませます。普段BigQueryを触っている環境であれば、その認証がそのまま使えることが多いです。
- Gemini CLIをインストールして初期設定する:CLI本体を入れ、APIキーやログインなど、利用に必要な初期設定を行います。
- BigQueryへ接続できるようにする:CLIからBigQueryへ問い合わせるための連携を設定します。この部分は仕組みが頻繁に更新されているので、最新の公式情報に従ってください。
接続まわりの設定確認は、たとえば次のような小さな問い合わせから始めると安全です。
# 接続が通っているかを最小コストで確認する例
# (実際のコマンド・オプションは最新の公式に従ってください)
gemini "BigQueryのデータセット一覧を表示して。今は接続確認だけが目的"
最初から大きなクエリを投げると、意図しない高コストなスキャンが走ることがあります。まずは「データセット一覧が見えるか」「小さなテーブルの行数が取れるか」といった軽い確認から進めるのがおすすめです。
設定でつまずきやすいのは、認証と接続の2か所です。認証が通っていないとそもそもデータが見えませんし、接続設定が古い手順のままだと動かないことがあります。エラーが出たら、まず認証が有効か、次に接続のやり方が最新の公式手順と合っているか、という順番で切り分けると原因にたどり着きやすくなります。
最初に教えておくべきこと
接続できたら、いきなり分析を頼む前に、前提を一度伝えておくと精度が上がります。具体的には、次のような情報です。
- GA4エクスポートのテーブルが日付ごとに分かれている構造になっていること
- 売上やコンバージョンに対応するイベント名・パラメータが何か
- 集計の対象期間や、除外したいテスト用データの有無
これらは事業ごとに違うので、AIが勝手に正しく推測することはできません。最初の一手間として、自社の用語と構造を言葉で渡しておくイメージです。
ここで渡した前提は、毎回打ち直すのは面倒なので、テキストファイルにまとめておくと楽になります。「自社の前提メモ」を用意しておき、分析を頼むときに最初に読ませる、という運用にしておくと、誰が依頼しても同じ土台で集計できます。担当者が変わっても前提が引き継がれるので、属人化の防止にもつながります。
GA4分析の依頼プロンプト例
ここからは、実際の依頼の雰囲気を紹介します。いずれも自然言語で頼むだけですが、条件を具体的に書くほど結果が安定します。
月次の基本集計を頼む例です。
gemini "BigQueryのGA4エクスポートを使って、先月1か月のセッション数・ユーザー数・購入イベント数を日別に集計して。日付・指標名・値の表形式で出して。クエリのスキャン量が大きくなりそうなら先に教えて"
もう少し踏み込んで、流入元ごとの質を見たいときの例です。
gemini "先月の流入チャネル別に、セッション数と購入数、そこから購入率を出して。購入率が高い順に並べて。チャネルの定義はGA4の標準的な区分でよい"
対話形式で深掘りしていくこともできます。たとえば最初の集計結果を受けて、こんなふうに続けます。
あなた: 先月、購入率が落ちている流入元はある?
CLI: (集計結果を提示)
あなた: その流入元について、前月と比較してどの指標が変化した?
CLI: (前月比の内訳を提示)
あなた: では、そのSQLをそのまま見せて。自分で内容を確認したい
最後の「SQLを見せて」という一言が大事です。AIが何をどう集計したのかを人が読めるようにしておくと、後で検算するときにも、別の人に引き継ぐときにも役立ちます。
うまくいきやすい依頼の書き方
いくつか試してみて、結果が安定する依頼にはいくつか共通点がありました。
- 期間を必ず書く:「先月」「直近12週間」のように、対象期間を具体的に指定する。
- 出力形式を指定する:「日付・指標・値の表で」など、欲しい形を先に伝えると後の処理が楽になる。
- 一度に欲張らない:複数の問いを詰め込むより、一問ずつ確認しながら進めるほうが取り違えが減る。
- 判断は人に残す:「どの施策が良いか決めて」ではなく「比較できる数字を出して」と頼み、評価そのものは人が行う。
逆に、曖昧な依頼ほど結果がぶれます。「いい感じに分析して」のような頼み方は、見栄えはよくても中身が信用できない出力になりがちなので避けてください。
コストへの配慮を必ず添える
BigQueryはスキャンしたデータ量で課金される仕組みです。「全期間で集計して」と雑に頼むと、思わぬ金額になることがあります。プロンプトには期間を区切る、対象列を絞る、といった条件を必ず添える習慣をつけてください。CLI側に「スキャン量が大きくなりそうなら先に知らせて」と頼んでおくのも有効です。
Claude Code / MCPとの住み分け
似たことは、Claude CodeをはじめとするほかのAIツールでも実現できます。どれが正解という話ではなく、用途で使い分けるのが現実的です。
- Gemini CLI:GoogleのデータであるGA4・BigQueryとの距離が近く、その場の集計やちょっとした調べものを手早く片づけたいときに向いています。
- Claude Code + MCP:MCP(Model Context Protocol)を介してBigQueryなどのツールへAIを接続する仕組みです。社内の決まった分析フローを繰り返し回したり、複数の手順をまとめて任せたりする運用に向いています。
この使い分けやMCP経由でのBigQuery接続については、Claude Codeから社内データをMCP経由で分析する記事で詳しく扱っています。また、ChatGPT・Claude・Geminiの三者をデータ分析の観点で比べた話は、3つのAIをデータ分析で比較した記事にまとめています。あわせて読むと、自分の現場にどれが合うか判断しやすくなるはずです。
筆者の感覚では、まずGemini CLIで「AIにデータを触らせる」ことに慣れ、繰り返したくなった定型作業をClaude Code + MCPに移していく、という順番が無理がありません。最初から作り込もうとすると、設定や運用ルールの整備で力尽きてしまいがちです。小さく試して、効いた部分だけ仕組みに昇格させる、というくらいの温度感がちょうどよいと感じています。
AI出力は必ず検算する
ここが一番強調したいところです。Gemini CLIが出す数字は、もっともらしくても間違っていることがあります。テーブルの解釈を取り違えたり、重複を除けていなかったり、期間の境界がずれていたり。原因はさまざまですが、起こりうるものとして扱うのが安全です。
AIが出した集計値は、必ず別の手段で突き合わせること。GA4の標準レポートと総数を比べる、スプレッドシートで一部を手計算する、生成されたSQLを人の目で読む——このいずれかを通さない数字は、社内の意思決定に使わない。
特に、お金や在庫など事業判断に直結する数字ほど、検算の手間を惜しまないでください。AIは下書きを猛烈な速さで作ってくれますが、その下書きに署名して責任を持つのは人です。この線引きさえ守れば、Gemini CLIは頼れる「下働きのアナリスト」になってくれます。
検算を軽くするコツ
毎回ゼロから検算するのは大変なので、負担を減らす工夫もしておくと続けやすくなります。
- 総数のアンカーを決めておく:「先月の購入数はGA4標準レポートで何件」という基準値を一つ持っておき、CLIの集計がそこから大きくずれていないかを真っ先に確認する。
- 境界をわざと尋ねる:「この集計の対象期間は何月何日から何日まで?」と聞き返し、期間の取り方がずれていないかを言葉でも確かめる。
- 一部だけ手で再現する:全体ではなく、特定の1日や1チャネルだけをスプレッドシートで計算し、突き合わせる。
完璧な検算でなくても、こうした「ずれていたら気づける仕掛け」をいくつか持っておくだけで、大きな事故はかなり防げます。
まとめ
Gemini CLIをGA4分析に使う流れを整理すると、次のようになります。
- GA4のデータをBigQueryにエクスポートし、CLIから接続できるようにする
- いきなり大きなクエリを投げず、小さな確認から始める
- 自社の用語やテーブル構造を最初に言葉で渡しておく
- 依頼には期間やコストへの配慮を必ず添える
- 出てきた数字は別の手段で必ず検算する
- 繰り返したい定型作業はClaude Code + MCPへ移していく
SQLが書けないことを理由に分析をあきらめていた現場ほど、効果を実感しやすいはずです。一方で「AIに任せきりにしない」という姿勢だけは、最後まで手放さないでいただければと思います。コマンドやオプションの最新仕様は、必ず公式ドキュメントで確認してから進めてください。