はじめに
「データ集計を自動化したいんですが、結局どのAIに任せればいいですか?」
最近、中小ECの運営者の方からこういう質問をよくいただきます。AIコーディングアシスタントが一気に増えて、ターミナルで動くタイプのもの(いわゆるエージェント型)も実用段階に入りました。SQLやちょっとしたスクリプトなら、自然言語で頼むだけで書いてくれる時代です。
ただ、各社の宣伝文句を読んでも、自分の現場でどう違うのかはピンときません。そこで今回は、中小ECで実際によくある「データパイプラインを1本作る」という具体的な仕事を、3つのアシスタントに同じ条件で頼んでみて、その様子を比べてみました。
先にお断りしておきます。この記事はベンチマークスコアを競うものではありません。あくまで筆者が中小EC向けの分析業務という文脈で各ツールを触ってきた、検証環境での所感です。数値での優劣付けはしません。それぞれの得意・不得意の傾向と、用途別の使い分けが伝わればと思っています。
なぜスコアにしないかというと、コーディングアシスタントの仕事ぶりは、頼み方やモデルの選択、その日の調子(同じ依頼でも出力は毎回少し変わります)でかなり揺れるからです。一度や二度の試行で「このツールは何点」と決めつけるのは、かえって判断を誤らせると考えています。なので、ここでは細かい点数ではなく、何度か触って感じた「傾向」として読んでいただければと思います。
AIモデルそのものの分析能力の比較は、別記事のChatGPT・Claude・Geminiのデータ分析能力を実データで徹底比較したでも扱っていますので、あわせて読んでいただけると全体像がつかみやすいはずです。
比較した3つのアシスタント
今回比べたのは、いずれもターミナル(コマンドライン)上で動く、エージェント型のコーディングアシスタント3種です。
- Claude Code(Anthropic):ターミナルで動く自律型のコーディングエージェント。複数ファイルにまたがる作業や、リポジトリ全体を見ながら進める長めのタスクを得意とするタイプです。
- Gemini CLI(Google):Googleの提供するコマンドラインエージェント。Google系のサービスと近い距離にあり、大きめのコンテキストを扱える点が特徴とされています。
- GitHub Copilot CLI(GitHub):GitHubが提供するコマンドライン版のCopilot。2026年に一般提供が始まり、計画・実装・レビューをターミナル内で回せるよう機能が拡張されました。複数のモデルから選んで使える形になっています。
3つとも仕様の更新が速い領域です。コンテキスト長や対応モデル、料金といった細かい数字は本記事の発行時点と変わっている可能性が高いので、最新の正確な情報は必ず各社の公式ドキュメントでご確認ください。本記事では「どう動くか」の傾向に絞って書きます。
何を作らせたか(共通のお題)
比べるためには、3つに同じ仕事を頼む必要があります。今回のお題は、中小ECなら一度は欲しくなる、こんなパイプラインにしました。
お題の内容
毎朝、前日分の広告データと自社ECの注文データを集めて、BigQuery上の「日次サマリーテーブル」に追記する、という処理です。
具体的には、次のような流れを想定しました。
- 広告管理画面からエクスポートしたCSV(日付・キャンペーン・費用・クリック数)を読み込む。
- ECの注文データ(日付・注文数・売上)を読み込む。
- 日付をキーに突き合わせて、日別のROAS(広告費用対効果)を計算する。
- 結果をBigQueryの
daily_summaryテーブルに追記する。 - 同じ日付のデータが既にあれば重複させない。
このくらいの規模が、ちょうど中小ECの現場でつまずきやすいラインです。SQLだけでは完結せず、ファイルの読み込みやBigQueryへの書き込みも絡むので、アシスタントの段取り力がよく見えます。
単純に「このSQLを書いて」と頼むだけなら、正直どのツールでもそれなりに書いてくれます。差が出るのは、複数の処理をつなげて、エラーや重複といった「現実の面倒ごと」まで面倒を見させたときです。今回のお題を選んだのは、まさにその面倒ごとを含めたかったからです。
頼み方をそろえる
評価を公平にするため、最初の指示文(プロンプト)は3つともほぼ同じにしました。テーブル定義とCSVのサンプルを渡したうえで、「上の処理をするスクリプトを書いてください。重複排除も忘れずに」という程度の、やや曖昧な頼み方です。
わざと細かく指定しなかったのには理由があります。中小ECの運営者が実際に頼むときは、技術用語をきっちり並べた指示は出せないことが多いからです。曖昧な依頼をどこまで汲み取ってくれるかも、実務では大事な評価軸になります。
評価のやり方
頼んだあとは、次のような流れで様子を見ました。
- 最初に出てきたコードを、そのままテスト用のデータセットで動かしてみる。
- エラーが出たら、エラーメッセージをそのまま貼って直してもらう。
- 出力されたサマリーテーブルの数字が、手計算した値と合っているかを確認する。
- 「月次の集計も足して」など、追加の依頼を雑に投げてみる。
ポイントは、こちらが先回りして手直しをしないことです。アシスタント自身がどこまで気づいて直すかを見たかったので、できる限り「頼んで、確認して、そのまま伝える」だけにしました。実際の運営者の使い方に近づけるための工夫です。
なお、サーバーレスで定期実行するパイプラインの組み方そのものは、Cloud SchedulerとCloud Functionsで作るサーバーレスETLで詳しく解説しています。今回はその「コードを書く部分」を誰に任せるか、という観点です。
観点ごとの所感
ここからは、実際に触ってみた所感を観点別にまとめます。繰り返しになりますが、◎○△は筆者の主観的な印象で、検証環境での所感です。同じことを別の現場でやれば違う結果になり得ます。
観点1:最初の出力の完成度
曖昧な指示から、どこまで「そのまま動きそうなもの」を最初に出してくるか、という観点です。
- Claude Code(◎):重複排除の条件まで含めて、意図を汲んだ構成で出してくる印象でした。テーブルが存在しない場合の作成や、エラー時の扱いまで先回りして書いてくることが多かったです。
- Gemini CLI(○):本筋の処理はきちんと押さえてきます。重複排除のような「言わなくても欲しい部分」は、一度こちらから補足すると素直に直してくれる、という感触でした。
- GitHub Copilot CLI(○):標準的で読みやすいコードを出してきます。モデルの選び方次第で完成度が変わる印象があり、上位モデルを選ぶとClaude Codeに近い段取りになる場面もありました。
観点2:BigQuery周りの正確さ
BigQuery特有の書き方(パーティション、MERGEでの重複排除、データ型の扱いなど)をどこまで自然にこなすか、という観点です。
- Claude Code(◎):
MERGEを使った重複排除など、BigQueryらしい書き方を自然に選んでくる場面が多かったです。 - Gemini CLI(◎):Google系のサービスだけあって、BigQueryの作法には強い印象でした。日付パーティションの扱いなども自然でした。
- GitHub Copilot CLI(○):一般的なSQLとしては正しいものの、BigQuery固有の最適化までは指示しないと出てこないことがありました。選んだモデルがGoogle系の場合は、この点が改善する場面もありました。
BigQueryは、書き方ひとつで読み込むデータ量が変わり、結果として費用にも影響する仕組みです。AIが書いたSQLは動けばよいわけではなく、「無駄に全件を読んでいないか」も確認したいところです。この観点は、どのツールでも最初の指示で「日付パーティションを使って」と一言添えるだけで、だいぶ安定しました。
観点3:曖昧な追加依頼への対応
作ったあとに「やっぱり月次の集計も足して」「ログも残して」と、追加で雑に頼んだときの追従力です。
- Claude Code(◎):既存のコードの構造を保ったまま、無理なく追記してくる印象でした。会話を重ねても文脈を保ちやすかったです。
- Gemini CLI(○):追加依頼にはしっかり対応しますが、ときどき既存部分を作り直してくることがあり、差分を確認する手間が出る場合がありました。
- GitHub Copilot CLI(○):GitHubのワークフローと近いところで動くので、変更の管理はしやすい印象でした。追従力はモデル選択に左右されました。
観点4:説明のわかりやすさ
非エンジニアの運営者が、出てきたコードや手順を理解できるかどうか、という観点です。これは中小ECの現場ではかなり重要です。
- Claude Code(○):何をしているかの説明は丁寧ですが、情報量が多めで、人によっては読むのに少し気合いがいるかもしれません。
- Gemini CLI(○):要点を絞った説明で、初学者にはとっつきやすい印象でした。
- GitHub Copilot CLI(◎):ステップごとの説明が簡潔で、コマンドの意味を確認しながら進めやすい設計だと感じました。
3つに共通してつまずいた点
優劣とは別に、3つとも同じように引っかかった部分もありました。これは「どのツールでも気をつけるべきこと」として知っておくと役立ちます。
ひとつは、日付の型と表記ゆれです。CSV側の日付が文字列で、BigQuery側がDATE型だと、突き合わせがうまくいかず、結果が空になることがありました。最初の指示で日付の形式を伝えておくと、どのツールでも事故が減りました。
もうひとつは、重複排除の「単位」のあいまいさです。「日付で重複させない」と頼んでも、日付だけで見るのか、日付とキャンペーンの組み合わせで見るのかは、伝えないと解釈が分かれます。集計の粒度は、人間がはっきり決めて伝える必要がある部分でした。
このあたりは、AIの賢さの問題というより、依頼する側が前提を言語化できているかの問題です。逆に言えば、ここを押さえておけば、どのツールでもかなり安定して使えます。
用途別の使い分け
3つを触ってみて感じたのは、「どれが一番か」よりも「どの場面で使うか」で選ぶほうが現実的だということです。検証環境での所感として、次のような使い分けが落ち着きどころでした。
がっつり1本作り込みたいとき
複数ファイルにまたがる、ある程度の規模のパイプラインを腰を据えて作るなら、Claude Codeが扱いやすい印象でした。曖昧な依頼を汲む力と、会話を重ねても破綻しにくい点が、長めの作業に向いています。
BigQueryやGoogle系で完結させたいとき
データの中心がBigQueryやGoogle系のサービスにあるなら、Gemini CLIの距離の近さが効いてきます。BigQueryの作法を自然にこなしてくれるので、SQL中心の仕事では気持ちよく進みました。
普段の開発の延長で軽く回したいとき
すでにGitHubでコードを管理していて、その流れの中でターミナル作業を済ませたいなら、GitHub Copilot CLIがなじみやすいです。説明の簡潔さもあって、日常的な小回りに向いている印象でした。モデルを選べるので、重い作業のときだけ上位モデルに切り替える、という使い方もできます。
非エンジニアの運営者が自分で触るなら
社内にエンジニアがいない場合、いきなり大きなパイプラインを任せるより、まずは小さな集計から始めるのが安全です。どのツールでも、出てきたコードをそのまま本番に流す前に、必ずテスト環境で動きを確認することをおすすめします。AIが書いたSQLは、文法は正しくても「意図とずれた集計」になっていることがあるためです。
最初の一歩としては、「先月の売上を商品カテゴリ別に出して」くらいの一度きりの集計から試すのがおすすめです。結果がすぐ確かめられるので、ツールの癖と、自分の頼み方の癖の両方がつかめます。そこで手応えを感じてから、毎日動かすパイプラインに進むと、つまずいても被害が小さく済みます。
まとめ
同じパイプラインを3つのアシスタントに作らせてみて、改めて感じたのは、もう「AIに任せられるかどうか」を悩む段階ではない、ということです。3つともお題のパイプラインは形にしてくれました。差が出たのは、最初の完成度、BigQueryの作法、曖昧な依頼への汲み取り方、説明のわかりやすさといった、地味だけれど実務に効く部分でした。
今回の所感を、ざっくりまとめておきます。
- 作り込みの相棒としては、汲み取り力と継続力でClaude Codeが扱いやすい。
- BigQuery中心の現場では、作法の自然さでGemini CLIがなじむ。
- 普段の開発の延長なら、小回りと説明のわかりやすさでGitHub Copilot CLIが入りやすい。
どれを選んでも、大事なのは「出てきたコードを鵜呑みにせず、必ず確認してから使う」という基本姿勢です。これはツールが進化しても変わりません。特に集計ロジックは、数字が一桁違うだけで意思決定を誤りますから、最初のうちは人の目で検算する習慣をつけておくと安心です。
もうひとつ実感したのは、ツールの差より「頼む側の準備」のほうが結果を大きく左右する、ということです。テーブル定義や日付の形式、集計の粒度といった前提をきちんと伝えられれば、どのツールもかなり頼れる相棒になります。逆に、ここがあいまいだと、どんなに賢いツールでも意図とずれた答えを返してきます。だからこそ、最初は小さなお題で「自分の頼み方」を磨くところから始めるのが、遠回りに見えていちばんの近道だと感じています。
そして繰り返しになりますが、この記事の評価は検証環境での所感であり、各ツールの仕様は更新が速い領域です。導入を検討される際は、最新の機能・料金を各社公式でご確認のうえ、できれば実際に小さなお題で試してから判断してください。自分の現場の「いつもの仕事」を一度作らせてみるのが、いちばん確かな比べ方だと思います。
ツール選びに迷う時間より、まず手元のデータで一度試す時間のほうが、ずっと多くのことを教えてくれます。気になったものから、気軽に触ってみてください。